甲状腺疾患とは?バセドウ病・橋本病の症状、検査・治療を専門医がわかりやすく解説
「動悸がする」「急に痩せてきた」「疲れやすい」「むくみや体重増加が気になる」。こうした一見ばらばらの症状の原因として、甲状腺の病気が隠れていることがあります。
甲状腺は首の前側にある小さな臓器で、甲状腺ホルモンを分泌しています。甲状腺ホルモンは全身の代謝や心拍数、体温などに関係するため、多すぎても少なすぎても全身にさまざまな症状が現れます。
代表的な甲状腺疾患には、甲状腺ホルモンが過剰になるバセドウ病、甲状腺機能低下症の代表的な原因となる橋本病(慢性甲状腺炎)、一時的にホルモンが高くなる無痛性甲状腺炎や亜急性甲状腺炎、甲状腺結節などがあります。日本甲状腺学会は2024年に甲状腺疾患診断ガイドラインを改訂しています。
甲状腺の役割と代謝への影響
甲状腺ホルモンは、簡単にいうと体の代謝を調節するホルモンです。そのため甲状腺ホルモンが多くなると、脈が速くなる、汗をかく、暑がりになる、体重が減るなど、体がアクセルを強く踏みすぎたような状態になります。
反対にホルモンが不足すると、脈が遅くなる、寒がりになる、むくむ、体重が増える、だるくなるなど、エンジンの回転が落ちたような症状が出てきます。
ただし、症状だけで甲状腺疾患と診断することはできません。血液検査でTSHやFT4、必要に応じてFT3などを測定して判断します。
バセドウ病のメカニズムと主な症状
バセドウ病は、免疫の異常によってTSH受容体自己抗体(TRAb)が作られ、甲状腺が過剰に刺激される病気です。その結果、甲状腺ホルモンが過剰に作られます。
日本甲状腺学会では、頻脈、体重減少、手の震え、発汗増加などの症状に加え、FT4・FT3高値、TSH低値、TRAbまたはTSAb陽性などを診断基準としています。
バセドウ病の代表的な症状
- 動悸・頻脈
- 手の震え
- 汗をかきやすい・暑がり
- 食べているのに体重が減る
- 疲れやすい・イライラする
- 下痢・便の回数が増える
- 首が腫れる
- 眼球突出などの眼症状
ただし、すべての患者さんに典型的な症状がそろうわけではありません。特に高齢者では症状が目立ちにくい場合があるため注意が必要です。
循環器疾患と甲状腺の関係
循環器診療で甲状腺疾患と接点が多い症状が、動悸と不整脈です。「最近、脈が速い」「動悸が続く」という方を診察して、心電図だけではなく血液検査をした結果、甲状腺機能亢進症が見つかることがあります。
特に重要なのが心房細動です。甲状腺ホルモンが過剰になると心拍数が上昇し、不整脈が起こりやすくなります。そのため、初めて心房細動が見つかった患者さんでは、背景に甲状腺機能異常がないか確認することがあります。
動悸は心臓だけの病気とは限りません。これは内科や循環器診療において非常に大切なポイントです。
橋本病と甲状腺機能低下症の違い
橋本病(慢性甲状腺炎)は、自己免疫によって甲状腺に慢性的な炎症が起こる病気です。日本甲状腺学会によると、橋本病は原発性甲状腺機能低下症の原因疾患として最も多い病気です。
ただし、重要なポイントとして橋本病であれば必ず機能低下症になるわけではないという点に注意が必要です。2024年のガイドラインでは、橋本病のうち甲状腺機能低下症になるのは約1割とされています。
つまり、抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体(TgAb)が陽性で橋本病と診断されても、甲状腺機能が正常であればすぐに治療が必要になるとは限りません。
甲状腺機能低下症で現れる身体的変化
甲状腺ホルモンが不足すると、疲れやすい、寒がり、体重増加、むくみ、便秘、眠気、動作が遅くなる、記憶力が低下する、声がかすれるなどの症状が現れることがあります。
日本甲状腺学会では、原発性甲状腺機能低下症の基本的な検査所見をFT4低値かつTSH高値としています。しかし、これらは非常に非特異的な症状です。
「最近疲れている」という主訴だけでは、睡眠不足、貧血、感染症、心不全、精神的ストレスなど多くの原因が考えられます。だからこそ、症状だけで判断せず血液検査で客観的に確認することが重要です。
甲状腺検査で重要なTSH(甲状腺刺激ホルモン)
甲状腺の血液検査で非常に重要なのがTSHです。TSHは甲状腺そのものではなく、脳の下垂体から分泌され「甲状腺ホルモンを作ってください」という指令を出します。
| 甲状腺ホルモンが多い場合 | TSHは低くなる |
|---|---|
| 甲状腺ホルモンが少ない場合 | TSHは高くなる |
この相関関係を利用し、TSHとFT4を組み合わせることで、甲状腺が働きすぎているのか低下しているのかを判断できます。ただし下垂体などが原因の中枢性甲状腺機能低下症では、この単純な関係にならないため専門的な評価が必要です。
甲状腺ホルモンが高値を示すその他の疾患
FT4やFT3が高く、TSHが低ければバセドウ病と思われがちですが、同じような血液検査結果になる病気として無痛性甲状腺炎などがあります。
無痛性甲状腺炎では、甲状腺に蓄えられていたホルモンが炎症によって血液中へ漏れ出すことで、一時的に数値が高くなります。日本甲状腺学会によると、通常は約3か月以内に改善しますが、その後一時的に甲状腺機能低下症になることがあります。
バセドウ病はホルモンを作りすぎている状態ですが、無痛性甲状腺炎は漏れ出している状態です。仕組みが違うため、当然治療法も異なります。
首の痛みと亜急性甲状腺炎
発熱と首の前側の痛みがあり、甲状腺ホルモンが高くなる場合には亜急性甲状腺炎を検討します。一方、前述の無痛性甲状腺炎では、その名の通り通常は強い痛みは伴いません。
診断においては検査数値だけでなく、痛みがあるかや抗体の有無、経過などを総合的に組み合わせて原因を特定します。日本甲状腺学会は各疾患について個別の診断基準を設けています。
甲状腺のしこり(結節)を指摘された場合
健康診断や頸動脈エコーなどで「甲状腺に結節があります」と指摘されることがあります。甲状腺結節の多くは良性ですが、形や大きさによっては詳しい評価が必要です。
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超音波検査による評価
大きさ、形、境界、内部の性状、石灰化、周囲のリンパ節の状態を詳細に確認します。 -
必要性の判断
超音波の所見から、悪性の可能性やサイズを考慮して次のステップが必要か検討します。 -
穿刺吸引細胞診
必要な場合には細い針で細胞を採取し、詳しく調べます。すべての結節に針を刺すわけではありません。
甲状腺疾患の主な検査内容
基本となるのは血液検査です。まずTSHとFT4を確認し、必要に応じてFT3を追加します。疾患の疑いに合わせて、以下の項目を測定します。
| バセドウ病の疑い | TRAb、TSAb |
|---|---|
| 橋本病の疑い | 抗TPO抗体、TgAb |
甲状腺の腫れやしこりがある場合には超音波検査を行い、病態によってはシンチグラフィなど専門的な検査を追加することもあります。
バセドウ病と機能低下症の治療方針
バセドウ病の治療
患者さんの状態に応じて、抗甲状腺薬、アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)、手術から選択します。どの治療が適しているかは、年齢、甲状腺の大きさ、妊娠の希望、眼の症状などによって異なります。
抗甲状腺薬では、まれに無顆粒球症などの重要な副作用が起こることがあります。治療開始後に高熱や強い喉の痛みが出た場合は、速やかな受診と検査が必要です。
甲状腺機能低下症の治療
不足しているホルモンを補うため、一般にレボチロキシン(甲状腺ホルモン製剤)を使用します。高齢者や心疾患がある方では、甲状腺ホルモンが心臓へ負担をかける可能性があるため、少量から慎重に調整します。
脈拍の変化やコレステロール値との関係
安静時の脈拍が「最近いつもより速い(90〜100回/分程度)」といった変化は、甲状腺機能亢進症のサインである可能性があります。反対に、機能低下症では脈が遅くなる傾向があります。
スマートウォッチなどで脈拍を確認できる現代では、普段の自分の脈拍からの変化に注目することが、体調変化に気づくきっかけになります。
また、甲状腺機能低下症ではLDLコレステロールが上昇することがあります。「急に数値が高くなった」という場合に甲状腺を調べると、疾患が見つかるケースも少なくありません。血圧や血糖、コレステロールの背景には、別の病気が隠れている可能性を考えることが大切です。
甲状腺の検査を検討すべきケース
以下のような症状や所見がある場合は、甲状腺疾患の有無を確認する価値があります。
- 動悸や頻脈が続く
- 原因不明の体重減少または増加
- 手の震えや発汗の増加
- 強い疲労感やむくみ、寒がりになった
- 首の腫れがある
- 原因不明の心房細動やコレステロール値の急変
甲状腺の症状は非常に幅広く、他の病気でも起こり得ます。そのため診察と血液検査を組み合わせて総合的に判断することが不可欠です。
適切な診断と専門医療機関との連携
甲状腺ホルモンは全身に作用するため、動悸、体重変化、疲労感、便通異常、コレステロール異常など、多岐にわたる症状として現れます。
重要なのは「甲状腺ホルモンが高いからといってバセドウ病とは限らない」「橋本病でも必ず機能低下症になるわけではない」という点です。日本甲状腺学会のガイドラインに基づき、各疾患を正しい基準で診断する必要があります。
甲状腺疾患が疑われる場合は、まず適切な血液検査を行い、必要に応じて専門医療機関と連携して精査や治療を進めていくことが重要です。
