狭心症とは?胸の痛み・原因・検査・治療を循環器専門医がわかりやすく解説
「歩くと胸が締め付けられる」「坂道を上ると胸が苦しい」「明け方に突然胸が痛くなる」。
このような症状の原因として注意したい病気の一つが狭心症です。
狭心症とは、心臓の筋肉(心筋)に必要な血液や酸素が一時的に不足することで、胸の痛みや圧迫感などを生じる病気です。
代表的なのは、心臓を栄養する「冠動脈」が動脈硬化によって狭くなるタイプですが、日本では冠動脈が一時的に強く収縮する冠攣縮性狭心症も重要です。また近年では、太い冠動脈に明らかな狭窄がなくても、微小血管の異常などによって狭心症症状を起こすANOCA/INOCAも注目されています。
狭心症で大切なのは、「胸が痛いかどうか」だけではなく、「どんな状況で、どんな痛みが、どのくらい続くのか」を詳しく確認することです。
狭心症とは?心筋への血流不足が引き起こす胸の痛み
心臓は全身に血液を送り出すポンプですが、心臓自身も酸素を必要とします。
その酸素を運んでいるのが、心臓の表面を走る冠動脈です。
冠動脈に動脈硬化が進んで狭い部分ができると、安静時には血液が足りていても、運動などで心臓がたくさんの酸素を必要としたときに十分な血液を送れなくなることがあります。
これが典型的な労作性狭心症です。
例えば、以下のような症状は、狭心症を考える重要な手掛かりです。
- 平地では平気だが坂道で胸が苦しくなる
- 急いで歩くと胸が締め付けられる
- 休むと数分で楽になる
狭心症による胸痛の具体的な特徴と放散痛
狭心症というと「胸がズキズキ痛む」と想像されるかもしれません。しかし実際の患者さんの表現はさまざまです。
- 胸を押さえつけられる
- 胸が締め付けられる
- 胸の上に重いものが乗っている
- 胸が焼ける感じがする
場所も胸の中央だけとは限りません。左肩、腕、背中、首、あご、みぞおちなどに症状を感じることもあります。
特に糖尿病のある方や高齢の方では、典型的な胸痛が目立たず、息切れや強い疲労感だけが症状ということもあります。
痛みの範囲で見極める狭心症のサイン
診療で胸痛の患者さんに、「どこが痛みますか?」と聞くことがあります。
そのとき、指1本で一点を示す方もいれば、手のひら全体を胸の中央に当てる方もいます。典型的な狭心症では、後者のようなある程度広がりのある圧迫感や締め付け感として感じられることがあります。
もちろん、これだけで狭心症かどうかを判断することはできません。しかし、循環器診療では「痛い・痛くない」だけでなく、患者さんがどう表現し、どの範囲を示すかまで診断のヒントとして見ています。
狭心症の主な種類とそれぞれの病態
労作性狭心症
動脈硬化によって冠動脈が狭くなり、運動時などに心筋への血流が不足するタイプです。階段、坂道、早歩き、重い荷物を持つなど、心臓への負担が増えたときに症状が出やすく、休むと改善することがあります。
冠攣縮性狭心症
冠動脈が一時的に強く縮む「冠攣縮」によって血流が低下する狭心症です。動脈硬化による狭窄が強くなくても起こることがあります。特徴の一つは、安静時、特に夜間から早朝に症状が出やすいことです。
日本では重要な狭心症の一つであり、2023年には日本循環器学会などから冠攣縮性狭心症と冠微小血管機能障害に関するガイドラインのフォーカスアップデートが発表されています。
微小血管狭心症
心臓の表面を走る太い冠動脈ではなく、その先の細い血管(冠微小血管)の機能異常などによって心筋虚血を起こす病態です。冠動脈CTやカテーテル検査で「大きな狭窄はありません」と言われても、胸痛が続くことがあります。近年のESCガイドラインでは、このようなANOCA/INOCAの診断と治療がより重視されています。
狭心症と心筋梗塞の違いと緊急性の判断
どちらも冠動脈の血流不足によって起こります。一般的な狭心症では、心筋への血流が一時的に不足しますが、血流が回復すれば心筋の障害を残さずに改善することがあります。
一方、急性心筋梗塞では冠動脈が急に閉塞するなどして心筋の血流不足が持続し、心筋が壊死してしまいます。
ただし患者さん自身が症状だけで両者を完全に区別することはできません。いつもより強い胸痛、安静にしても治らない痛み、冷や汗や吐き気を伴う痛みなどは、急性冠症候群を考えて緊急評価が必要です。急性冠症候群には不安定狭心症や心筋梗塞が含まれます。
動脈硬化を促進させる狭心症のリスク因子
動脈硬化による冠動脈疾患では、以下の因子が重要です。
- 高血圧
- 糖尿病
- LDLコレステロール高値
- 喫煙
- 肥満
- 慢性腎臓病
- 加齢
- 冠動脈疾患の家族歴
狭心症の治療では「胸痛を止める」だけでは不十分です。血圧、コレステロール、血糖、喫煙などを管理し、将来の心筋梗塞や心血管イベントを予防することが大きな治療目標です。
安静時の心電図検査が正常でも安心できない理由
いいえ。安静時心電図が正常でも、狭心症を否定することはできません。
これは診療で非常に重要なポイントです。労作性狭心症では、安静にしている診察室では心筋への血流が足りているため、通常の心電図が正常なことがあります。
「病院で心電図を撮ったら正常だったから心臓は大丈夫」とは限りません。症状の内容とリスクを評価したうえで、必要に応じて冠動脈CTや負荷検査などを検討します。
狭心症の診断に用いられる主な検査項目
まず重要なのが問診です。いつ症状が出たのか、運動との関係、持続時間、痛みの場所、休むと改善するか、高血圧や糖尿病などの背景を確認します。そのうえで、以下の検査を必要に応じて組み合わせます。
- 12誘導心電図
- 心エコー
- 血液検査
- 冠動脈CT
- 運動負荷・画像を用いた虚血評価
- 冠動脈造影
2024年ESC慢性冠症候群ガイドラインでは、適切な非侵襲的検査を選択する診断戦略が示されています。
専門医が重視する症状の再現性と時間軸
胸痛の診療で、特に重要な質問が「同じくらいの運動をすると、毎回似た症状が出ますか?」という点です。
例えば、「駅まで普通に歩くのは大丈夫。でも最後の坂道になると毎回胸が苦しくなって、止まると治る」という症状には、非常に重要な情報が含まれています。どれくらいの運動量で心臓が血流不足になるのかが比較的再現されているからです。
循環器診療では、単に胸痛の強さだけではなく、「何をすると出るか」「どのくらい休むと治るか」という時間軸を大切にしています。逆に冠攣縮性狭心症では、運動とは関係なく夜中や明け方の安静時に繰り返すことが特徴です。
狭心症の治療方針:薬物療法と冠血行再建術
治療は狭心症の種類や冠動脈の状態によって異なります。まず高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙などの心血管リスクを適切に管理します。
| 薬物療法 | 症状に対して硝酸薬、β遮断薬、カルシウム拮抗薬などが病態に応じて使用されます。 |
|---|---|
| PCI | 経皮的冠動脈インターベンション(カテーテル治療)で狭窄部位を広げます。 |
| CABG | 冠動脈バイパス手術を行い、新たな血液の道を作ります。 |
すべての狭心症にステントが必要というわけではありません。薬物療法、症状、狭窄部位、虚血の程度、心機能などを総合して治療方法を選択します。
救急車を呼ぶべき危険な症状のチェックリスト
胸痛の中には緊急性の高いものがあります。以下の症状がある場合は、119番への救急要請を検討してください。
- 突然の強い胸痛・圧迫感
- 安静にしていても改善しない
- いつもの狭心症より明らかに強い、長い、頻回になった
- 冷や汗を伴う
- 吐き気・嘔吐を伴う
- 強い息苦しさを伴う
- 意識が遠のく
- 胸から腕・背中・あごなどへ症状が広がる
胸痛や違和感を繰り返す方へ
胸痛の原因は狭心症だけではありません。胃食道逆流症、筋肉や肋骨の痛み、肺の病気など、さまざまな原因があります。
一方で、狭心症は「痛みが治ったから問題ない」とは限りません。特に、「歩くと胸が苦しくなり、休むと治る」「夜中から明け方に胸痛を繰り返す」という場合には、一度循環器内科で評価することをおすすめします。
狭心症を治療する目的は、胸痛を軽くすることだけではありません。心筋梗塞を予防し、将来にわたって心臓を守ることが、本当の治療目標です。
