大腸憩室症とは?憩室炎・憩室出血の症状、原因、治療を専門医がわかりやすく解説
「大腸カメラで憩室があると言われた」「突然、便器が真っ赤になるほど血が出た」「腹痛と発熱があり、憩室炎と言われた」
このようなときに関係するのが大腸憩室症です。大腸憩室とは、大腸の壁の一部が外側へ袋状に飛び出した状態です。年齢とともに増える比較的よくみられる変化で、憩室があるだけで治療が必要になるわけではありません。
一方、憩室に炎症が起こると大腸憩室炎、憩室の血管から出血すると大腸憩室出血となります。つまり、「憩室がある」=「憩室炎」ではありません。この違いを理解することが、大腸憩室症を知る第一歩です。
大腸憩室とはどのような状態か
大腸の壁は、内側から粘膜、筋層など複数の層でできています。大腸の内圧などによって、血管が腸管壁を貫く比較的弱い部分から粘膜などが外側へ袋状に飛び出したものが、一般的な大腸憩室です。
大腸カメラでは、腸の壁に小さな穴やくぼみが開いているように見えます。1個だけの場合もあれば、数十個みられる場合もあります。多くの方は症状がなく、健康診断や別の目的で受けた大腸カメラで「憩室がいくつかありますね」と偶然指摘されます。この症状のない大腸憩室そのものは、基本的に治療対象ではありません。
大腸憩室ができる原因と日本人の特徴
大腸憩室の発生には、加齢、大腸壁の構造変化、腸管内圧、食生活や生活習慣など複数の因子が関係すると考えられています。
日本における大腸憩室の分布には、以下のような特徴があります。
| 右側結腸 | 盲腸や上行結腸など。従来、日本人に多いとされてきた部位。 |
|---|---|
| 左側結腸 | S状結腸など。欧米人に多く、近年は日本でも増加傾向。 |
ただし、日本でも高齢化や生活様式の変化などに伴い、左側型や両側型の憩室症もみられます。そのため、「憩室=右側だけ」と考えるわけではありません。
大腸憩室症の主な症状と合併症
憩室があるだけなら、多くの場合は無症状です。問題になるのは、主に次の2つの合併症です。
| 大腸憩室炎 | 憩室に炎症が起こり、腹痛や発熱などが現れます。 |
|---|---|
| 大腸憩室出血 | 憩室周囲の血管が破綻して出血します。 |
この2つは同じ憩室が原因ですが、症状も検査も治療も異なります。
大腸憩室炎の症状と診断・検査
憩室に炎症が起こった状態が大腸憩室炎です。代表的な症状は以下の通りです。
- 腹痛
- 発熱
- 腹部の圧痛
- 吐き気
- 食欲低下
- 便通の変化
痛む場所は炎症を起こした憩室の位置によって異なります。右側結腸に炎症が起これば右下腹部痛が出るため、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)とよく似た症状になることがあります。一方、S状結腸など左側に憩室炎が起これば、左下腹部痛が目立ちます。
憩室炎の診断方法
腹痛だけで憩室炎と診断することはできません。血液検査で炎症反応を確認し、必要に応じて腹部CT検査などで炎症の場所や程度を評価します。特に重要なのは、「炎症が憩室周囲だけにとどまっているか」という点です。
炎症が強くなると、膿瘍(膿がたまる)、穿孔(腸に穴が開く)、腹膜炎などを起こすことがあります。このような合併症がある場合には、入院治療、ドレナージ、手術などが必要になることがあります。最新のガイドラインでも、診断・重症度評価においてCT検査が重要な位置を占めています。
大腸憩室炎の治療方針:抗菌薬の必要性
ここは近年、考え方が変化しているポイントです。以前は「憩室炎=抗菌薬」と考えられることが一般的でした。
しかし現在では、合併症のない軽症の急性憩室炎では、全身状態や基礎疾患などを考慮しながら、患者さんによっては抗菌薬を使用せずに経過をみる選択肢もあります。一方、発熱や炎症が強い場合、免疫機能が低下している場合、膿瘍や穿孔などが疑われる場合などでは、抗菌薬や入院治療が必要になることがあります。
つまり、「憩室炎だから全員同じ薬」ではなく、重症度を見極めることが重要です。最新の海外ガイドラインでも、非複雑性憩室炎に対する抗菌薬の選択的使用が検討されています。
専門医からの豆知識:憩室炎の「急性期」には大腸カメラを控える理由
「大腸の病気なら、すぐ大腸カメラをした方がいいですか?」と聞かれることがありますが、強い急性憩室炎が起きているときには話が違います。炎症によって大腸壁が弱くなっている可能性があり、無理に内視鏡を挿入すると負担になる場合があります。
そのため急性期には、症状、血液検査、CTなどを中心に評価し、炎症が落ち着いた後に必要性を判断して大腸カメラを行うことがあります。病気によって検査をするタイミングを変えることも消化器診療では非常に重要です。
大腸憩室出血の症状と特徴
もう一つ重要なのが大腸憩室出血です。憩室周囲の血管が破綻することで出血します。典型的には、腹痛がほとんどないのに、突然かなりの量の血便が出るという症状です。鮮やかな赤色から暗赤色の血液が出て、患者さんからは「便器が真っ赤になった」と表現されることもあります。
近年、日本では大腸憩室出血が急性下部消化管出血の重要な原因となっています。最新の研究においても、その疫学、診断、内視鏡治療、再出血予防についてエビデンスが整理されています。
血便が出た際の注意点
血便が出た際に「憩室があるから大丈夫」と自己判断するのは危険です。血便は、大腸憩室出血だけでなく、大腸がん、大腸ポリープ、痔、虚血性腸炎、炎症性腸疾患など、さまざまな病気で起こります。
過去に「憩室があります」と言われていたとしても、「今回の血便も憩室だろう」と自己判断してはいけません。特に出血量が多い場合や繰り返す場合には、速やかに医療機関を受診してください。
大腸憩室出血の治療ステップ
出血量や全身状態によって治療は異なります。一般的には以下のような段階を経て治療が検討されます。
-
自然止血の確認と経過観察
安静にして出血が止まるかを確認します。多くのケースで自然に止血します。 -
内視鏡的止血術
出血が続いている場合、大腸カメラで出血源の憩室を探し、クリップなどを用いて止血を行います。 -
血管内治療(TAE)
出血が強く内視鏡治療が難しい場合に、カテーテルを用いて出血している血管を塞ぎます。
大腸憩室出血では、「出血している憩室を特定できるか」が治療上の重要なポイントになります。
よくある質問と生活上の注意点
血液をサラサラにする薬の服用について
抗凝固薬や抗血小板薬を服用している方が血便を出した場合、自己判断で中止するのはおすすめできません。薬を中止すると、脳梗塞や心筋梗塞などのリスクが高くなることがあります。出血の程度と血栓症リスクの両方を考えて、医師が中止・再開を判断する必要があります。
食事制限(ナッツやゴマ)の真実
以前は「ナッツやゴマが憩室に詰まるので避けるべき」と言われていましたが、現在ではナッツや種子類を一律に避ける必要があるという十分な根拠はありません。むしろ、食事全体、運動、体重管理などの生活習慣を総合的に整えることが重要です。
大腸がんとの関係性
大腸憩室そのものが大腸がんになるわけではありません。憩室は大腸壁の構造的な変化であり、ポリープとは別物です。ただし、憩室がある人にも大腸がんは発生します。血便をすべて「憩室のせい」と決めつけず、適切に検査を受けることが大切です。
定期的な大腸カメラの必要性
「憩室がある」という理由だけで頻繁に大腸カメラを受ける必要はありません。検査の間隔は、年齢、ポリープの既往、便潜血の結果、家族歴、症状などを総合して判断します。憩室の「数」だけで次回検査を決めるわけではありません。
早急な受診が必要な症状
大腸憩室がある方で、特に注意が必要な症状は強い腹痛・発熱と血便です。以下のような場合は、早急に医療機関を受診してください。
- 血便が何度も続く
- ふらつきや冷や汗、意識が遠のく感覚がある
- 強い腹痛で動けない
- 高熱(38度以上)が続く
- 吐き気を伴う激しい腹痛がある
大腸憩室を指摘された方へのアドバイス
大腸憩室は比較的よくみられる状態であり、憩室があるだけなら、多くの方は症状なく生活できます。そのため、大腸カメラで指摘されても必要以上に心配することはありません。
一方で、以下の2つの合併症のパターンは覚えておきましょう。
| 痛み + 発熱 | 大腸憩室炎の疑い |
|---|---|
| 突然の血便 | 大腸憩室出血の疑い |
大腸憩室症の診療では、憩室そのものを治療するのではなく、炎症や出血といった合併症が起きたときに適切に対応することが最も大切です。
